通常のマンションやアパート、オフィスビルについては、
多くの場合、将来において、
住んだり利用する人が入れ替わることが想定されています。

一方で、自社ビルや工場、営業のための専用店舗、
ホテル、介護施設、病院などは、
営業活動のために、
建物が特殊であることが求められます。

たとえば、スーパーやコンビニなどは
それぞれのチェーン店で規格の坪数が決められていたり
階高や荷捌きのための出入り口などの決まっており、
他の店舗のために作られた建物を
そのまま利用して営業することができないことは
多くあります。

自社ビルや工場も、会社が実現したい理念や営業方針、
コンセプト、福利厚生などが反映されたり、
特殊な製造ラインを設置する必要性から、
他社では使いにくい特殊な建物になったりします。

介護施設などはその特殊性が高く、
同じ介護施設事業者であっても、
1フロア当たりの戸数や廊下の幅、
エレベーターの大きさや浴室など、
過去に培った経験を生かすために会社ごとに規格が細かく決まっており、
最初の介護施設事業者が撤退した後、
同じ建物を使って別の介護施設事業者が必ず利用できるとは
限らなかったりします。

病院のように自社で建物を建てるときは
建築費の払い手も自社ですので
当然ながら好きなように設計して建てればよいのですが、
店舗、ホテル、介護施設、特殊な倉庫などは自分で建てずに、
デベロッパーや地主に建物を建てて頂き、
テナントとして利用することになるため、
デベロッパーや地主は、
最初のテナントのための専用建物を建てるということになります。

このようなテナント専用建物のことを
BTS(build to suit)と呼んでいます。

ここからはデベロッパーや地主などの「大家さん側」目線で
記載をいたします。

繰り返しですが、
自分でお金を払って建物を建てるのなら誰も文句を言わないのですが、
大家はテナントのためにBTSを建ててあげたのに、
将来においてテナントが賃貸借契約を解約して撤退するという暴挙を
される可能性があります。

このリスクを理解することがとても大事です。

たとえば、鉄筋コンクリート造の介護施設の法定耐用年数は
一般に39年と言われていますが、
最初のテナントとなる介護事業者が賃貸借契約を締結する期間は20~30年です。

つまり、営業が好調であれば
1回目の期間満了後にまた賃貸借契約を締結して
営業を継続してくれる可能性がありますが、
建物は老朽化しますし近隣に競合の施設ができたりすると
当初の期間満了後は
もう営業は終了しようと判断される可能性があります。

その後に「最初のテナントの専用建物を使ってくれる」次のテナントを
本当に誘致できるのかどうかを
よく考えておく必要があるわけです。

さらにいえば、
期間満了まで使ってくれれば両者約束を全うすることになりますが、
期間の途中であってもテナントの営業が不振になれば
大家はテナントに撤退されるリスクを考えておく必要があります。

この「中途解約」をできるだけ起こされにくくする必要があります。

その方法としては、

・この建物での営業が不振にならないような運営能力のあるテナントを選ぶこと
・この建物での営業が不振になっても賃貸借契約は続行してくれるだけの資本力がテナントにあること
・この建物での営業が不振になっても簡単に賃貸借契約を解約できないような「ペナルティ」を設定しておくこと

などがあります。

最初の2つはテナントとしての「クレジット」や「与信力」「信用力」を判断する点から、
銀行が融資するときと同じような観点でチェックをするのですが、
3つ目の「ペナルティ」は賃貸借契約に織り込む契約上の「テクニック」の話題となります。

つまり、中途で解約をしたら大家に●●円を支払うこと、といった約束を盛り込むことになります。

具体的には、中途解約のときは、

・預けている敷金の返還請求を放棄して大家にあげる(敷金の放棄をする)こと
・期間満了までの家賃を撤退時に一括で払うこと
・次のテナントを今のテナントが見つけてくるまで家賃を払い続けること
・別途に違約金として、家賃の12か月分(など)を払うこと
・別途に違約金として、建物の未償却残高を払うこと

などなどの規定を設けることになります。

こうすることで、テナントとしては簡単に営業をやめることはできず
日々、集客のための営業努力やコスト削減、
運営方法改善などに注力することになり、
大家としては安心感が高まることになります。

とはいえ、マーケットは生き物ですので、
違約金を払ってでもテナントは撤退を決めることを余儀なくされることがあります。
実際にこれらの違約金をめぐって数々の裁判が起きてしまっています。

BTSの建物を建てる場合や購入する場合には、
現在のテナントのクレジット面やペナルティ設定をよく確認し、
必要に応じて専門家の判断を仰ぐことも必要になります。