「コンプライアンス」というと、
言葉を使う業界やタイミングによって言葉の意味が異なるのですが、
具体的に不動産取引に絞り込むと、
訳語はシンプルに「法令遵守」になると思います。
不動産の取引においては、
家賃を支払ってくださる「テナントの事業」と
土地建物を所有とする「オーナー」について、
それぞれコンプライアンスを考えていく必要があります。
まずは家賃を支払ってくださるテナントについてですが、
一般にテナントが行う事業はその業界の法律の指導下にあります。
ホテルであれば旅館法、
大規模なスーバーであれば大規模小売店舗立地法
飲食店であれば食品衛生法といった具合です。
一方、不動産を購入する投資家は、
特に建築基準法や消防法に関する法律遵守の意識が高いです
賃貸中といえども、テナント任せではなく、
建物の所有者というだけで、
建築や消防安全上の義務を負うことが多いからですね。
テナントが守るべき法律のエビデンスを確認しつつ、
建物オーナーとしての法律も守るということになります。
さて先日、神奈川県のとある場所にある介護施設の売却のご相談を頂きました。
土砂災害警戒区域内にある区域だそうです。
この「土砂災害警戒区域」とは何でしょうか?
そのエリア内の土地建物は少なくとも
十分な安全性を備える必要がありそうですね。
土砂災害防止法は、土砂災害から国民の生命を守るため、
土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、
警戒避難態勢の整備などのソフト対策を推進しようとするものです。
(住宅移転の促進なども含みます)
平成11年の広島県で発生した集中豪雨により、
300件以上のの土砂災害が発生したことが契機となり
翌年に法律として制定されました。
土砂災害のおそれがある区域を「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」、
建築物に損壊が生じ、住民等の生命又は身体に著しい危害が生じるおそれがある区域を「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」、
として指定されます。
イエローゾーンでは当該区域における警戒避難体制の整備を図ることを義務づけていますし、
レッドゾーンでは、それに加えて、住宅地の分譲や社会福祉施設等の建設を許可制としていたり、
建築行為の審査の際、建物構造上で規定の土砂災害対策が施されていることが必要になったります。
介護施設関連では、両方のゾーンについて、
避難場所および避難経路に関する事項、避難訓練の実施に関する事項を定めることが多いです。
許可が下りれば建築ができなかったり介護施設が運営できないことはないのですが、
建物オーナーとして守るべき建築上の義務があり、テナントとしても守るべき義務があるわけです。
このような状況で建てられている施設を不動産投資家はどう見るのでしょうか?
お問い合わせを受けたケースでは現在の介護事業者は避難計画を立案して運営をしていますが、
将来この介護事業者が賃貸借契約を解約しテナントではなくなったときは、
オーナーである投資家は、別の介護事業者を誘致しなくてはいけません。
家賃が入ってこなくなるからです。
でも介護事業者によっては、そもそも多数の高齢者を避難させる計画を立案したがらないようです。
要介護度によっては、避難させること自体が困難だからですね。
建物は建っているけれども介護事業者が入らず家賃が入らないかもしれない。
このような不動産は投資の対象としては考慮しづらく、
資産価値が劣ると言わざるを得ないわけですね。
自然災害のコンプライアンスが不動産取引に影響を与える例としては、
・土壌汚染(防止法)
・水質汚濁(防止法)
・土砂災害(防止法)
・急傾斜地(の崩壊による災害の防止に関する法律)
などがあり、それぞれ利用面、建築行為、開発行為などが制限され、
不動産の資産価値に大きな影響を与えています。